(出典 s3-ap-northeast-1.amazonaws.com)

40歳になると納め始める介護保険料。
「将来、介護が必要になった時には支援を受けられる」と考える人は少なくありません。

しかし、末期がんなどで急速に身体機能が低下する患者の場合、制度上は対象になっていても、必要な介護サービスが間に合わないケースがあります。

今回取り上げるのは、余命6カ月と告げられた末期がん患者が、必要な支援を受けられないまま亡くなった事例です。

なぜ、介護が必要な状態になってもサービスにつながらなかったのでしょうか。
そこには、終末期のがん患者を支える制度の課題がありました。

余命6カ月を告げられた末期がん患者の現実

2023年、末期の大腸がんを患っていたある男性は、医師から余命6カ月との告知を受けました。

男性は抗がん剤治療を続けながら、自宅で生活していました。

しかし、治療による副作用や病状の進行によって、日常生活には大きな負担が生じるようになります。

特に深刻だったのが、人工肛門の管理でした。

人工肛門を使用している人にとって、パウチ(排泄物をためる袋)の交換は欠かせない作業です。

ところが、体力が大きく低下した男性は、自分自身で交換することも難しい状態になっていました。

「身体がつらく、人工肛門のパウチ交換もできない」

家族は、訪問介護などの支援を受けているものと思っていました。

しかし、実際には介護保険サービスを利用できていませんでした。

介護が必要でもサービスを利用できなかった理由

介護保険は、65歳以上であれば原因を問わず利用できます。

一方で、40歳から64歳までの人の場合は、末期がんなどの特定疾病によって介護や支援が必要になった場合に利用対象となります。

つまり、この男性のようなケースでは、制度上は介護保険を利用できる可能性があります。

それでも、実際には必要なタイミングでサービスにつながらないことがあります。

理由の一つが、要介護認定に必要な手続きと、終末期がん患者の病状変化のスピードの違いです。

生活を支える介護サービスが必要になる場面

末期がん患者の場合、必要なのは医療だけではありません。

食事、入浴、排泄、移動、福祉用具の利用など、日常生活を維持するための支援が重要になります。

例えば、訪問介護を利用できれば、身体的な負担を減らすことができます。

また、介護ベッドや車いすなどの福祉用具があれば、自宅で過ごす環境を整えることも可能です。

しかし、介護保険につながらなければ、患者本人だけでなく家族にも大きな負担がかかります。

制度上は対象でも認定が間に合わない問題

介護保険サービスを利用するには、原則として要介護認定を受ける必要があります。

申請後は、認定調査員による確認、主治医意見書、審査会での判定など、複数の手続きを経て結果が決まります。

認定結果は原則30日以内に通知されますが、自治体や申請状況によっては時間がかかる場合があります。

しかし、終末期のがん患者は、数週間単位で状態が変化することがあります。

昨日まで歩けていた人が、短期間で寝たきりに近い状態になることも珍しくありません。

⚠ 終末期がん患者が抱える制度上の壁

  • 認定結果を待つ間に身体状態が悪化する
  • 必要な介護サービスを利用する前に亡くなる場合がある
  • 家族だけで介護や生活支援を抱えることになる

がん患者に必要な生活支援とは

末期がん患者にとって、必要なのは治療だけではありません。

病気の進行や抗がん剤治療による副作用によって、これまで当たり前にできていた生活動作が難しくなることがあります。

例えば、食事の準備、入浴、排泄、移動、通院など、日常生活のさまざまな場面で支援が必要になります。

医療によって痛みを和らげることはできますが、生活全般の困りごとを解決するには、介護サービスの力が欠かせません。

介護サービスで支えられる主な部分

  • 自宅での食事・入浴・排泄などの生活支援
  • 介護ベッドや車いすなど福祉用具の利用
  • 通院時の移動負担の軽減
  • 家族の介護負担を減らすサポート

しかし、現在の介護認定の仕組みは、終末期がん患者の急激な変化に十分対応できていないという指摘があります。

介護認定制度が抱える3つの課題

課題1:病状の急変に認定スピードが追いつかない

介護保険の要介護認定は、本人の身体状況や日常生活でどれほど介助が必要かを確認して判断されます。

しかし、終末期のがん患者の場合、認定時にはまだ歩けていたり、自分でトイレに行けたりすることがあります。

その結果、実際の生活上の困難さに比べて、要介護度が低く判断される場合があります。

がんの場合、状態は短期間で大きく変化する可能性があります。

「現在できること」だけではなく、「近い将来必要になる支援」も考慮した仕組みが求められています。

課題2:「歩ける」ことで必要な支援が届かない場合がある

介護認定では、身体機能や認知機能などを総合的に判断します。

しかし、認知機能が保たれていて、短距離でも歩ける人の場合、介護の必要性が低く評価されることがあります。

一方で、がん患者は「今日できること」が明日できなくなるケースがあります。

例えば、現在は歩行できていても、急激な体力低下によって車いすや介護ベッドが必要になる可能性があります。

その変化を見越したケア計画が重要になります。

課題3:年齢による利用条件の違い

介護保険制度では、40歳未満の人は原則として対象外です。

40歳以上64歳以下の場合も、利用できるのは末期がんなど限られた特定疾病の場合に限られます。

しかし、介護が必要になる状況は年齢だけで決まるものではありません。

同じように重い病気を抱えていても、年齢によって利用できる制度に差があることは、今後議論すべき課題といえます。

自治体による運用の違いも課題に

厚生労働省は、がん患者など急速な状態変化が見込まれる人について、迅速な介護サービス提供ができるよう自治体へ対応を求めています。

要介護認定の結果が出る前でも、状況によっては暫定的なケアプランを作成し、サービス利用を開始できる仕組みがあります。

また、認定調査を早めに実施するなど、迅速化のための取り組みも示されています。

しかし、実際の運用は自治体や関係機関の対応によって差が出る場合があります。

制度として利用できる仕組みがあっても、患者や家族がその存在を知らなければ利用につながりません。

医療機関、ケアマネジャー、自治体が連携し、必要な人へ速やかに情報が届く体制づくりが求められています。

「申請を待つ制度」から「必要な時に届く制度」へ

終末期のがん患者に必要なのは、手続きが完了するまで待つことではありません。

身体状況が急速に変化する時期だからこそ、必要な支援を早く届ける仕組みが重要になります。

専門家からは、主治医が急激な悪化を予測した場合、認定結果を待たずに一定期間サービスを利用できる仕組みなどを求める声もあります。

現在ある制度を活用することは大切ですが、地域によって支援の受けやすさが変わる状況は改善する必要があります。

まとめ:介護保険は「最後の時間」を支える制度

介護保険は、高齢者だけのための制度ではありません。

末期がんなどで生活に支援が必要になった人が、自分らしく過ごすためにも重要な役割を持っています。

しかし、現在の仕組みでは、病状の変化が早い患者に対して認定やサービス提供が間に合わないことがあります。

必要な人が、必要なタイミングで支援を受けられる制度にするためには、現場の努力だけではなく、制度そのものの見直しも必要です。

介護保険が本当に人を支える制度であるためには、「申請できる制度」ではなく「必要な時に届く制度」へ進化していくことが求められています。

体験談

この記事を読んで、同じような経験をした家族も少なくないのではないでしょうか。
私自身も、母が末期の大腸がんを患った際、介護認定の難しさを実感しました。
母は最期まで認知機能はしっかりしていました。
介助なしに歩くことができ、トイレも一人で行ける状態でした。
そのため、医師からは「この状態だと介護認定が下りない可能性もある」と説明を受けました。
しかし、その後、入院中に骨折したことをきっかけに介護認定を受けることになり、結果として認定は下りました。
ただ、認定された介護度は要介護1でした。
もちろん、要介護1でも支援を受けられる制度ではあります。
しかし、末期がん患者の場合、身体状態は短期間で大きく変化します。
母の場合も、認定調査員の方が来るまでに約2週間かかり、認定結果が出るまでにはさらに約1カ月かかりました。
必要な支援を受けられる状態になった時には、すでに時間は限られていました。
結果的に、母は介護認定を受けてから約2カ月で亡くなりました。
認定そのものが下りない不安、認定までに時間がかかる問題、そして認定されたとしても実際の病状変化に支援内容が追いつかない問題。
終末期のがん患者にとって、介護保険制度は「利用できるかどうか」だけではなく、「必要な時に間に合うかどうか」が大きな課題なのだと感じます。


記載の情報は執筆時点の一般情報であり、最新の詳細は公式をご確認ください。

40歳から保険料を納め続けたのに…余命6カ月と告げられた兄は介護保険を使えないまま65歳で亡くなった
…40歳になると介護保険料の納付が始まる。介護保険は、40歳以上65歳未満でも、がんなどで介護や支援が必要な状態と認定された時は、介護保険サービスを利…
(出典:プレジデントオンライン)